樹木希林と向田邦子作品が母とぼくをつないでくれた。
【隔週木曜日更新】連載「母への詫び状」第二十六回
〈連載「母への詫び状」第二十六回〉
■樹木希林さん出演の『寺内貫太郎一家』
樹木希林さんの懐かしい映像が連日、テレビに流れている。『寺内貫太郎一家』はもっぱら「ジュリ~~」が話題にされているが、うちの母が好きだったのは食事のシーンだ。
樹木希林(当時の芸名は悠木千帆)演じるおばあちゃんが、ぐちゃぐちゃに納豆をかき混ぜ、何かを食べた後に「ぶっ」と口からタネなどを吹き出す。すると、隣の西城秀樹が「きったねえな、ばあちゃん!」と嫌がる。おなじみの掛け合いだった。
あれを見ながら母は「あら、ヤだ。行儀悪いばあちゃん」とか、「まあ、味噌汁をご飯にかけちゃった。あれされると、作ったほうは気分が悪いのよ」なんて、半分は顔をしかめながら笑っていた。
母と一緒に『寺内貫太郎一家』を見たのは、割と最近のことである。
母がベッドの上でしか生活できなくなり、テレビが一番の楽しみになってから、シリーズ1とシリーズ2の全話をDVDで視聴した。向田邦子さんが脚本を書いたドラマなら、母が気に入ってくれるだろうと、ぼくがレンタルショップから借りてきた。
このドラマがリアルタイムで放送された1974年、75年当時、母は教師の仕事と子育てに忙しく、テレビドラマをゆっくり楽しむ時間など、ほとんどない人だった。それでも向田邦子の名前だけは知っていた。